2013年5月26日日曜日

問題に向き合い脳に負荷をかけることの意味

昨日、TV番組を予約しようとTVをつけたら「科学の甲子園」に関連した
シンポジウムがNHKで放送されていました。
たまたま見た時に発言されていたパネリストが新井紀子さん。
(新井さんの経歴もすごい。法学部に入って、それから数学の院を卒業されている!)
私自身、この人の論文や書籍で教育の問題を勉強してきた関係で、
TVに目が留まったのですが、新井さんはこんなことを言われていました。

夏休みの長い期間かけて高校生と合宿(?)のようなことをやっていて、
そこで難しい計算に挑戦してもらったのだそうです。
こんなことを言われていました。
  eのπ乗とか、3のルート3乗とかを小数点2ケタまで手計算で求めてもらう
  といったことをやりました。
  これってどうやって計算していいのか皆目見当もつきませんよね。
  そういう見当もつかないものに対し、あーでもない、こうでーもないと試行錯誤を
  ずっと続けていると、「もー、いやだ」と思った頃、ふと解き方がわかるときがある。
  それって、あーでもない、こーでもないと脳を苦しめた結果、こんな無駄な
  やり方をやっているのは嫌だと脳が拒否反応を起こすのです。
  脳が簡単な方法を見つけようとイノベーションを起こすのです。
  脳にイノベーションが起きた時、問題が解決される。
おおよそこんな話でした。
新井さんの話に深く同意しました。全くその通りだと思いました。
たいたい、こういった類のことは前々からゼミ生にはよく話していました。
脳に負荷をかけずに、問題を解決することなどありえません。
 
問題を解決すると言うのは、その問題(世界)と向き合い、問題と同化するという
こと、問題を外ではなく、内側から見ることができるようになって初めて可能に
なるものです。
一昨日、4年(10)吉村がどなたかのツイートをリツイートしていたのですが、
  大学院に進みバイオな研究をしている友人は、昼夜ショウジョウバエの
  孵化作業に勤しんでいるのだが、ある日こんな電話をしてきた。「聞いて
  くれ、俺はもうダメかもしれない。さっきハエと合コンする夢を見た。」
それを読み、吹き出しつつも、深く深く納得しました。
夢でうなされるぐらい問題に向き合っていて初めて、問題の内側に入り込むことが
できる。
それぐらい同化できたとき、外からでは決して見えなかった問題の内部構造を見る
位置に立てるからです。
問題に作られている頑丈なドアを破り、内側に入り込み、問題とひとつになって内部
構造が見えるようになると、解く糸口を見出しやすくなることが多い。
昨日のガリラボ通信に世界と向き合い、その存在とひとつになる芸術家のことを
書きました。
芸術における創作も問題解決過程にほかなりません。
問題を外から尊大に見るのではなく、問題と同化し自分自身がその問題になりきって
しまうことが大切だと思います。
 
それは自然にはできません。
訓練が必要です。
私だと一番それを行ったのが、学部の卒論ではなく、博士論文でもなく、修士の論文
の時でした。
問題のレベルが高かったわけではありませんが、当時の私にとっては難問でした。
ただし、講義はほとんどなくて時間だけはたっぷりとありましたから、その時間のすべて
を問題に捧げることができた。
夢に出てくるのはしょっちゅうで、夢に出てきたことをあくる日やってみるといったこと
もよくありました。
修士論文を仕上げていたそういった過程で得た膨大な知識は、今は昔話をするとき
に使うぐらいのものです。
だいたいが、今はその当時からは想像もできない仕事をしているので、そういった
知識が役立つはずがありません。
だけど、強い負荷をかけ続けてあの時に造られた私の問題解決のやり方(私の脳の
クセ)は現在も貴重な財産になっていることは間違いありません。
物事の進め方、特に新しいことに向き合っていくときの態度を教えてくれているように
思うのです。

気恥ずかしいですが勇気を振り絞り・・・ ^^
写真はM2の1月。ちなみにこの写真は自分で暗室で現像したものです。
将来の半導体加工装置の開発に向けて行っていた研究で、装置の制御用の電気回路
関係はすべて自分で設計、電気部品を取り寄せ半田ゴテ片手に部品を基板に取り付け
ていきました。かなり細かい作業です。制御回路を組込んでいる金属やアクリルの枠組
みは旋盤やドリルなどを使った手作り、真空排気装置(左端)は既製品ですが、心臓部
分のステンレス製のイオンビーム装置はコンピュータシミュレーションによって最適な条
件を見出いした後、それを具体的な形にするために製図板の前に座って設計図300枚
ほど書き、最後は日立製作所の工場に図面を出して仕上げたものでした。
材料+加工費は当時のお金で確か300万円ほどかかったと先生から聞いてます。
12月30日ぐらいに納品され、大晦日から元旦にまでかけて組み立て作業、初日の出は
研究室の窓から同じ研究室の仲間と見た記憶があります。


効率的な話し合いなど、問題解決にとっては極めて非効率です。
問題解決に向けてタフな脳を作っていくという意味では、効率さは無意味なものでしかない。
七転八倒しながら、延々と、色々な角度から、問題に向き合う。
そういうトレーニングを繰り返して、負荷に耐えられるタフな脳を作り上げていくことが、
社会人になっていく上での大切な学びのひとつだろうと思います。
仕事とは問題解決以外の何ものでもありませんから。
学生時代の知識が役立つなどと思うのは全くの間違いです。
そんなことはあり得ません。私の例を見てもわかると思います(リアリティを持ってもらう
ために、恥ずかしながらあえて写真を使いました)。
知識はそういうことです。だけど、そこでどうやっていくかは極めて大事です。
そう思います。

あと2ヶ月もすると夏休みが始まります。
夏休みこそチャンス。
脳に一定の負荷をかけ続けるのに、講義という邪魔が存在しない。
無理難題の問題に向き合って、脳に負荷をかけ、それをクリアしていくコツを
脳に覚えこませていく、そういった鍛錬の夏にしてはどうでしょうか。
ちなみに、こういう形の負荷は、ストレスになることはありません。
負荷とストレスはたぶん別物です。
まだ夏には早いのですが、だけど準備のことを考えるともうそろそろかなとも思います
ので、ゼミ生から、自発的に、こういったことに挑戦したいという声が上がることを期待
しております。


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